名無しのななちゃん

記憶にある
父との思い出をふりかえると
みんないいものばかり


家庭はあんなに混沌としていて
怒号が飛び交い
お茶碗も飛び交い
緊張の糸がピンと張っていたのに




ななちゃん とゆう
いつもどこでも一緒にいた
小さな犬のぬいぐるみ
そのななちゃんを失くし (『七』参)
意気消沈していた7才のわたし


ある日いつものように
母とダイエーに買いものへゆくと
食品売り場のわきにある
小さなおもちゃ売り場に
かわいいかわいいふわふわの
犬のぬいぐるみを見つけた

もうひとめぼれで
母とダイエーにゆくたびに


よかった まだいた


よかった まだいた



まだいた よかった



と所在を確認していた





そんな日々を1ヶ月過ごし
ある日わたしは勇気をだした

父ちゃんにおねだりしたのだ





「あのね おねがいがあるのだけど…

.......

…ほしい犬のぬいぐるみがあるの」



とゆうと父ちゃんは




『なんでも買ってやる』





みくがそんなこと言うのはじめてだから と

家族みんなですぐにダイエーに向かいました








「…この子がほしいの」  と言ったときのむずがゆさを


1000円とゆう大金を使わせてしまった とゆう罪悪感を


わがままを言ってご足労おかけした とゆううしろめたさを



わたしの願いを叶えてくれた とゆうおどろきを


ふわふわのワンちゃんを抱いて帰るときの
あの満たされた感じを



ぷちぷちとわきあがるよろこびを




帰りの車のなかで感じていたごちゃまぜの気持ちを
今も鮮明に思い出せる




とびきりいい名前をつけたくて
考えて考えて考えすぎて
結局今も名前はついていない

名無しのななちゃん と呼んでいる


母が わたしもほしい と言って
かわいい茶色のリスを選んだ
その子は「スーちゃん」と名付けられた








母とわたしは父にぬいぐるみを買ってもらった

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↑名無しちゃん






時間がゆっくりと変えてくれること
時間がしらぬまに気づかせてくれること
時間をかけなくては変わらないこと
泣いてばかりいたっていいこと
自分じゃどうにもならないこと



過去はいいの
それでよかったの
よくないのに それでよかった
嘘みたいによかったことの集まり
決して許してはいけないことも
もういいのだと思っていい
それで大丈夫



そう生きることしかできなかったわたしたち










今は光の流れ
なにがおきてもゆるすうけいれるもう済んだこと
光の水に流す



原因を探す はもう終わり
今この瞬間で完結する
今心にあることがすべて



なにを心にまねきいれるか 自分で選べる








名無しのななちゃんに
そろそろ名前をつけなくちゃ



「ななしちゃん」 でいっか